治療とともに続く日々のこと

薬物療法に伴う
副作用との向き合い方
司会:薬物療法中に経験された副作用とその時の対応について教えていただけますか。
にゃんたさん:副作用に対しては「しんどいな」と感じつつも出て当然だろうと思い、あまり考えすぎないようにしていました。ただ、症状はすべて先生に伝えるようにしていたので、休薬や中止の判断は適切にしていただけたと思っています。
なおさん:治療を始めてすぐの頃に副作用を経験しましたが、とにかく治療を続けたい一心で、「多少のことなら頑張ろう」という気持ちで続けました。先生も体調変化や副作用の症状はないか聞いてくださっていたので、何かあれば相談して対症療法の薬を処方してもらったり、飲みやすい薬に変えてもらったりして乗り越えました。
司会:お二人とも副作用について主治医に上手に伝えることができたようですね。温泉川先生は患者さんに薬の副作用についてどのようにお話しされていますか。
温泉川先生:中程度以上の頻度で発現する副作用についてはもちろんですが、頻度が低い副作用でも万が一発現したら致死的な経過を辿る恐れのあるものについては必ず説明するようにしています。
また、薬剤によって発現しやすい副作用やその時期の予測がある程度つくので、患者さんがイメージしやすいように治療開始1週目、2週目、3週目と、時期別に発現しやすい症状と、副作用ごとの予防法や対症療法などもあわせてお伝えしています。
司会:患者さんへの副作用の有無の聞き取りもされますか。
温泉川先生:そうですね。血液検査の結果を見ればわかる副作用もありますが、吐き気のように患者さんに自覚症状を聞かないとわからない副作用もあります。そうした聞かなければわからない副作用については、症状が出やすい時期に特に積極的に伺うようにしています。
最近では、ご自身の体調や症状の有無を記録する自己管理アプリを上手に使いこなされている方も増えています。症状の記録がコンパクトにまとまっていますし、医師と患者さんとの会話のきっかけにもなりますので、そうしたツールを活用していただくのも副作用の管理にはとても良いなと感じています。
高額療養費制度を
知ったきっかけ
司会:病気やご自身の体調以外で、治療中に気になったことや不安になったことはありますか。
なおさん:私はすべてが初めての経験で、さらにはコロナ禍だったこともあり経済的な面でも不安がいっぱいだったことを覚えています。
温泉川先生:私からみなさんにぜひお伺いしたいのですが、高額療養費制度などをどのようにして知ることができましたか。また、お仕事はされていたのでしょうか。
司会:私が治療を始めたときは、勤務先の人事の方から高額療養費制度のことを教えていただきましたが、お二人はいかがでしたか。
なおさん:夫もがん治療の経験があるので高額療養費制度のことは知っていました。病気がわかった当時は扶養に入っていたので夫の会社を通して申請手続きをしてもらいました。やはり治療費はすごくかかるだろうと思ったので、コロナ禍でも安心な在宅ワークが可能な仕事を探して働いていました。
にゃんたさん:私の場合、乳がんの治療で休職中に卵巣がんが見つかったので、そのまま休職期間満了で退職することになりました。がんは何度も経験していますし、ファイナンシャルプランナー2級の資格を取ったので、高額療養費制度についてはあらかじめ知っていました。
司会:他にも先ほどお話にあがった患者さん向けのSNSといったコミュニティでも情報収集ができますし、がん相談支援センターでお話を伺うこともできますので、ぜひご活用いただきたいですね。
[69歳以下で年収が約370~770万円の方の例]
100万円の医療費で、
窓口負担(3割)が30万円かかる場合
自分の治療に
「満足しています」
司会:医療者の方々から受けたサポートや言葉などで印象に残っていることはありますか。
にゃんたさん:初回の化学療法期間中に、途中までは気力で何とかやり過ごしていたものの、だんだんと気持ちが疲れてきてしまって、何が辛いのかわからないけれど辛くて悲しいという時期がありました。そのときに患者支援センターに相談して、看護師さんに付きっ切りで話を聞いてもらったことがあります。
関係性が近い人にはなかなか言えないこともあるので、口外せずに話を聞いてくれる方がいるというだけで気持ちが大分楽になりましたね。まるでカウンセリングを受けに病院に行っているようでした。医療者の方々は本当によくサポートしてくださる方ばかりなので、とても感謝しています。
なおさん:抗がん剤の投与には時間を要しましたが、看護師さんに体の負担を軽くするためベッドに寝かせてもらったり、話し相手になってもらったりしました。手術の際にも声をかけてくれたのが安心感につながって、すごくありがたかったなと思います。
特に印象深いのは外来担当の看護師さんがいつも何かを褒めてくれたことですね。副作用で脱毛したときに、「どうせウィッグを被るから」と短い髪を金色に染めてみたのですが、それを褒めてもらって嬉しかったです。
司会:ご自身が受けた治療に満足されていますか。
にゃんたさん:はい。医療者の方々にとても献身的に支えていただいたので満足しています。
なおさん:私も、そのときにできる治療を最善のタイミングで受けられましたし、今も再発無く元気に過ごせているので満足しています。
司会:卵巣がんとともに生きる中で、チャレンジしてみたいことや今後の意気込みはありますか。
にゃんたさん:今は半分くらいフリーランスのような形で少しずつ仕事ができるようになっていますので、これを軌道に乗せて自宅で働けるようになりたい、人並みの収入を得られるようになりたいと思っています。
なおさん:最近夫についていきながら5kmほど走れるようになりました。あと2km走れるように頑張ろうと思います。治療については先生とも相談しながら、前向きに臨みたいと思っています。
変わり続ける医療の中で
大切にしたいこと
司会:最後になりますが、先生から本日のまとめをお願いいたします。
温泉川先生:昨今の新たな卵巣がん治療薬の登場に伴って、特に遺伝子変異がある方への治療選択肢が増えたと言えます。こうした流れによって「より効果が期待できる人に適切に薬を使う」という考え方や情報が次々にアップデートされているので、その時々で最適な提案ができるよう医療者も常時知識をアップデートしていく必要性を感じています。
ただし、これは見方を変えると、あまり先々のことを考え過ぎてもその将来には情報が変わっている可能性があるということを意味します。大切なのは、何かイベントが起こったときや治療選択の際に、どれだけ医療者が情報提供できるか、どれだけ医療者と患者さんがコミュニケーションを取りあってディスカッションできるかということに尽きるのではないかと思いました。
司会:みなさま、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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対症療法
病気に伴う症状を和らげる、あるいは消すための治療です。がんによる痛みや治療による副作用の症状が強い場合などに、それぞれの症状に応じた治療が行われます。がんを取り除くといった、根治を目指す治療ではありませんが、つらい症状に対応して痛みや不快な症状を取り除くことで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を維持することを目指していきます。
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化学療法/抗がん剤治療
細胞の分裂機構に作用して細胞の増殖を抑える薬(抗がん剤)を使った治療法のことをいいます。抗がん剤は、作用の仕方によってさまざまな種類があり、単独、または複数の薬を組み合わせて用います。
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再発
手術や薬物療法、放射線治療などの治療により、検査でがんがなくなったことを確認した後、再びがんが現れることをいいます。